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2010年4月22日 日本経済新聞より

分析 みちのく企業 阿部長商店
水産物、輸出に活路 中国・ロシア向け新工場

 宮城県の北東部に位置し、カツオやマグロなどで日本有数の漁獲量を誇る気仙沼港。周囲に数ある水産物卸・加工会社の中心的な存在が阿部長商店だ。国内需要の減少で廃業する事業者も多いなか、中国などに販路を拡大。旺盛な海外需要を見込み、8月には岩手県大船渡市で新工場を稼動するなど輸出に活路を見いだそうとしている。

-観光事業4割-
 「日本のワサビやしょうゆが売れている」。3月下旬、阿部泰浩社長は中国・成都で食品業者から聞いた話にニヤリとした。海で取れた魚を刺し身で食べる消費者が増えている証拠だ。現地では数年前まで加熱調理した淡水魚しか食べなかったという。「中国市場は伸びる余地が大きい」と改めて確信した。
 中国に本格進出したのは2007年。大連と成都に事務所を構えた。09年11月には大連事務所を法人化。阿部社長は毎月のように訪中し、学生時代に習得した中国語を駆使して取引先を開拓。今では1度に1,000トン単位で注文が来るほどだ。
 同社は阿部社長の父、泰兒会長が1961年創業した鮮魚卸から出発。気仙沼を基点に事業を広げ、南三陸町や石巻市にも魚の大型冷蔵・冷凍設備や加工工場を持つ。扱う魚はカツオやサンマ、シャケなど50種を越す。同社の09年12月期の売上高は132億円で、約6割を水産事業が占める。
 残りの約4割が観光事業だ。気仙沼や南三陸町で3ホテルを運営し、気仙沼の特産品を販売する「お魚いちば」などの施設も展開する。漁獲量に左右される水産事業に比べて観光事業は収益が安定しており、全体の業績を下支えしている。
 しかし、約5年前から屋台骨の水産事業に陰りが見え始めた。サンマなどの大衆魚の売れ残りが目立つようになった。人口減と消費者の魚離れが原因。総務省の統計でも家庭の魚貝類への支出はここ10年で約2割減った。
 魚を調理できない人が増えているのに対応し、電子レンジで加熱するだけで食べられるサバのみそ煮などの加工食品を強化するが、内需の掘り起こしには限界がある。阿部社長は「生き残るためには海外に販路をつくらなければ」と決断した。

-20億円を投資-
 ロシアでも需要は堅調だ。脂の乗った気仙沼のサンマは評価が高く、水煮の缶詰は日本より2~3割高い値段で売れるという。阿部社長は魚を入れたスーツケースを持って小売業者などに飛び込み営業、取引の可能性を自らの目で確かめる。
 さらなる輸出拡大に備え、設備も増強中だ。岩手県大船渡市には約20億円を投じて新工場を建設しており、8月に稼動する。輸出国の衛生基準に合わせた設備を導入し、魚の頭を取り除くなどの作業をする。半年後をメドに加工食品の製造も始め、3~5年後の年間売上高は45億円を目指す。
 現在、同社の魚の取扱量の6割が国内向け、4割が海外向けだが、「今後は、魚(の種類)によっては比率が逆転する」(阿部社長)という。気仙沼の水産事業の地盤沈下は著しいが、阿部社長は「日本一のサンマ屋として負けていられない」と世界で気仙沼ブランドの確立を目指す。